趣味が高じて
古唐津発祥の地へ
岸岳の山裾に整備された古窯の森公園のすぐ下手、緑と水に囲まれた自然の中に龍仁窯があります。主人の南森氏は京都生まれの奈良育ち。父母親戚がお茶や民芸を好む趣味人だった影響もあり、早くから焼物に興味を持ったそうです。
学生時代から唐津焼に心を奪われた南森氏は、製薬会社に就職すると迷わず唐津近辺を任地に希望。願いかなって長崎へ配属されると、休日に各地の古窯跡を歩き回り「いつか九州で焼物を作りたい」と夢がふくらみはじめます。やがて子育てがひと段落した57歳の時に会社を辞め、千葉に家族を残して憧れの北波多へと旅立ちました。
好きから始まった焼物の道ですが、やはり自分で作るとなると苦労の連続。古唐津の陶片や文献を調べ、各地の学会や研究会に参加し、試行錯誤を繰り返しながら、何年もかけて少しずつ自分のものにしていったそうです。
自然も古窯も
すべてから学ぶ
作陶の核となるのは古唐津の伝統。岸岳の砂気の多い土を使って自分の陶土を練り上げ、登り窯を用いて焚き上げます。作るのは主に日用食器や酒器、花入れ、鉢、抹茶碗など。衒いのない人柄そのままの焼物には徐々にファンもつき、今では唐津の西ノ門館や北波多の草伝社をはじめ、各地のギャラリー等で展示・販売されています。茶道や草花、自然への造詣も深く、そうした好みや知識もまた作品の味わいとなっているようです。
「古唐津のふるさと・北波多はずっと憧れていた場所。自然も豊かなので感性を刺激されます。ここで焼物をやれるのは幸せなことですよ」と静かな森での生活を心から楽しんでいる様子。俗世から距離を置き、ただ純粋に土と向き合う南森氏の唐津焼は、季節の草花とともに皆さんの暮らしを彩ってくれることでしょう。